美術館で全力ダッシュ。爽快だけど意味不明なアート。
Martin Creed Work No.850 2008
(C)The artist. Photo : Hugo Glendinning
美術館の空っぽのギャラリーを全力でダッシュする人々。毎日朝10時から5時40分まで、30秒おきに人が走り抜けていく。美術館なんだからたぶんアートなんだろう、という推測はあたっている。イギリスのアーティスト、マーティン・クリードの個展なのだ。走っているのはクリードがスポーツ誌などで募集した人々。「85メートルの距離を全力で、観客にぶつからないように走る」のが条件だ。ちなみにランナーには時給9・35ポンドが支払われる。
クリードは2001年に「ギャラリーの照明がついたり消えたりするだけ」という作品でターナー賞を受賞、一躍注目を集めた。今回の作品「Work No. 850」はイタリアのパレルモでの経験がもとになっているのだという。「カプチン修道会のカタコンブ(死者を葬った洞窟)を見に行ったんだけど、遅刻したので見学時間が5分しかなかった。全力で走る僕たちを骸骨が見ていると思ったら笑いがこみあげてきて、これを美術館でやったらおもしろいんじゃないかと思ったんだ」「何でもあり」な感もある現代美術だけれど、ここまで来るとさすがに「これってアートなの?」な疑問もわく。クリードは「僕はどう答えていいのかわからないな。みんながアートだと思うものがアートなんだと思う」ととぼけたことを言っている。
実はクリードはターナー賞受賞後、活動のペースを落としていたことがあった。どうも少し体調を崩していたようだ。彼は「Work No. 850」について次のようなことも言っている。「力いっぱい走っていると『生きている』という実感がわいてくる。絶対的な静止状態が死なのだとすれば、できる限り速く動くことは究極の『生』だと思う」
じっとしていることに恐怖を覚えるから動き続ける、とも言うクリード。この作品はそんなライトな強迫観念からの逃走なのかもしれない。
ライター/青野尚子
(関連)
http://poetic-archipelago.blogspot.com/2008/07/work-no850.html